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東京高等裁判所 昭和63年(ラ)719号 決定 1989年7月19日

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告代理人は「原決定を取り消す。相手方は抗告人に対し、昭和六三年九月一日現在の相手方の株主名簿について、東京都中央区銀座七丁目三番五号の相手方の本店において、営業時間内に限り、抗告人またはその代理人をして、その閲覧及び謄写(写真撮影を含む)をさせなければならない。」との裁判を求め、その理由として、別紙「抗告の理由」記載のとおり主張した。

二  当裁判所の判断

商法が二六三条二項により、株主は会社に対し株主名簿の閲覧または謄写を請求できるとしているのは、これによって、株主個人の利益を保護することはもとより、それと同時に、会社の機関を監視することにより間接に会社の利益を保護しようとするところにあるから、株主が株主名簿を、右のような法の趣旨を逸脱した目的に使用することが明らかである場合においては、株主の閲覧等の請求に対し、会社は正当な理由がないとして、これを拒みうるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件記録によると、次に付加する外、原審が認定した事実のうち、原決定二枚目裏一〇行目から同四枚目表五行目までの事実を、一応認めることができる。

「(七) 相手方においては、定款により、一単位の株式の数は一〇〇〇株と定められているところ、昭和六三年七月二八日に開催された、相手方の第一九回定時株主総会における、議決権を有する株主は一七七六名、その株式数は四三三二万九〇〇〇株であった。相手方の現在の取締役一一名は、いずれも右株主総会において賛成率九九・九パーセント以上で再選されたものである。なお、同株主総会では、その外に松原弘も取締役として選任されたが、同人は同年九月五日辞任した。」

右認定事実によると、抗告人は、日本社会党(以下「社会党」という)の政策審議会事務局長の地位にあるところ、抗告人が本件株式を売買により取得したのは、いわゆるリクルート疑惑が発生し、一時は一株金五〇〇〇円もしていた相手方の株価が、このために低落して一株金三九二〇円になった昭和六三年八月二四日であり、しかも株主名簿閲覧等請求権を行使しうる最小単位の一〇〇〇株を取得したにすぎず、この間社会党では、衆議院本会議における代表質問や参議院予算委員会での質問を通して、相手方の非公開株の譲渡を受けた政治家等の氏名の公表等を迫り、また衆議院税制問題等調査特別委員会の理事会で相手方の株主名簿の提出を要求するなど、抗告人の行動と社会党の政治活動とは符節を合わせているのであって、このような事情を勘案すれば、抗告人の本件株主名簿閲覧等の請求は、株主の権利を擁護するため、商法で認められた少数株主権を行使する前提としてなすものであって、それ以外の目的はないという抗告人の主張は到底信用することができず、前示法の趣旨を逸脱した目的によりなされたもので、正当な目的がないものといわざるをえない。

そうすると、抗告人の本件仮処分命令の申請は、被保全権利の疎明がなかったことになり、疎明に代えて保証を立てさせるのも相当でないから、これを失当として却下すべきであり、右の同旨の原決定は相当である。

よって、本件抗告を失当として棄却することとし、抗告費用の負担について民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 枇杷田泰助 裁判官 喜多村治雄 裁判官 松津節子)

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